唐津暮らし〜ここちよい生活のはじまり

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「一粒田」~生きる力を育む場所~

「一粒田」~生きる力を育む場所~

唐津市枝去木(えざるき)。
22 年間、完全無農薬、無化学肥料でお米を作っている棚田があります。
その名も“一粒田(いちりゅうでん)”。一粒田を営んでいるのは坂本さんご夫婦です。日本有数の米どころである佐賀平野の農家さんも「上場(うわば)の米にはかなわん」と言うほど、ここ上場台地はおいしいお米の産地なのをご存知でしょうか?



上場台地とは、標高約 100~200 メートル、唐津市西部及び玄海町に広がる台地のこと。上場台地は、玄界灘に面しており、対馬海流の影響で日中は温暖ですが、日が沈むと冷え込みます。昼夜の温度差が大きいことで、稲が時間をかけてゆっくり熟すため、甘みが強く、冷めても美味しいお米が出来るのです。さらに、一粒田は飲んでも美味しい湧水が田んぼのすぐ近くから湧き出ており、その水で稲を育てています。質の良い冷たい湧水のお陰で、お米はさらにおいしくなるのです。

唐津市の棚田で育ったお米の美味しさにビックリする子どもも多いそう

ご飯の美味しさにビックリする子どもも多いそう。(写真提供:福岡自然大学校)

美味しいお米の取れる田んぼ、それがどうして私のおすすめスポットなのかというと、ここ一粒田は大人も子供も泥んこになって遊び、そして安全な食について学べ、生きる力を育める場所だからです。現在、自然教育団体や、唐津でアウトドアイベントを開催している会社とコラボレーションし、福岡からも田植え、稲刈り、泥んこ遊び、餅つきなどにたくさんの子ども達が訪れます。

自然教育団体や、唐津でアウトドアイベントを開催している会社とコラボレーションし、色んなイベントが開催されています

もちつきを楽しむこどもたち 一粒田のお餅は何もつけなくても美味しいのです。

1996 年、坂本さんご夫婦は当時アイガモ農法でお米を育てていたお友達に、田んぼからあげたアイガモを預かってほしいと頼まれました。アイガモ農法とは、田植え後、稲が活着した後にアイガモの雛を田んぼに放ち、雑草や虫を食べてもらう、という農法です。当時は農薬を使用しお米の栽培をしていた坂本さんでしたが、農薬や除草剤を使用しないことと、お尻を振って歩くアイガモの可愛らしさに強い魅力を感じ、アイガモ農法に切り替えたのでした。

田植え後、稲が活着した後にアイガモの雛を田んぼに放ち、雑草や虫を食べてもらう合鴨農法も行われています
唐津市の棚田で元気に田んぼを泳ぎ回るアイガモたち

合鴨を水田に放すお手伝い・元気に泳ぎ回るアイガモたち (写真提供:福岡自然大学校)

しかし実際は苦難の連続。田んぼに放った 100 羽以上のアイガモがアナグマやイノシシに襲われて、すべて食べられてしまうこともありました。

「5年目くらいかな。3反くらい(約 1000 ㎡)の田んぼで米が1俵しか出来ない年があった(通常は1反で6俵のところ)。アイガモが害獣にやられて、除草が出来んくて、手で除草しても間に合わんかった。さすがにこたえたね。お袋が除草剤をまこうと言ったが、絶対にやめてくれろ、と。1回でも除草剤や化学肥料を使うと、その田んぼを元に戻すには最低でも3年かかる。お客さんを裏切ることになる。それだけはできん。」
美味しいだけじゃない、安全な米を届けたい、という強い想い、信念を持ってやり続けると決めた人が持つ、迷いのない笑顔で坂本さんは言います。

一粒田を皆で力を合わせてお米を炊きます
炊けた唐津の一粒田のご飯をよそう坂本さん

皆で力を合わせて、薪を集め、火をおこし、かまどで炊いたご飯をよそってあげる坂本さん
(写真提供:福岡自然大学校)

坂本さんが、今一番心配しているのが、箱苗に使われる薬です。
「苗を売る人がふらす。種にかけるけん、ずっと、米粒まで残るとよ。どれだけ身体に影響があるかわからん。」
坂本さんは自家採種しており、もちろん種・苗にも薬は一切使いません。
「土が健康であれば、植物は自然と育っていく。」と坂本さんは言います。



22年という年月を経て、土が健康になったのでしょうか。
現在は、5枚ある田んぼの内、4枚はアイガモさえ入れずにお米が収穫出来るようになった一粒田。肥料は坂本さんの所で出た米ぬかと、菜種かすのみ。棚田の一番上の、最も冷たい湧水が流れる田んぼは、それらの肥料すら要らないそうです。その土地その土地に本来いるはずの菌が、生きる力を取り戻したからかもしれません。農薬や除草剤、化学肥料を使わないからこそ、安心して子どもたちが自然体験できる場となったのです。

唐津市の棚田は農薬や除草剤、化学肥料を使わないから自然豊かな田んぼでお米が育っています

稲刈り。自然な環境だからこそ、虫や水生生物もたくさん見つかります。(写真提供:福岡自然大学校)

最近は泥んこ遊びをしたことがない子、泥で汚れるのを嫌う子も多いと聞きます。しかし全身泥んこになって遊んだ子供たちは、「最初は汚いし、嫌だなぁって思ったけど、一回泥んこになったらめちゃくちゃ楽しかった!」「踏んだ感触が気持ちよかった!」と言うそうです。
子ども達にとって泥んこ遊びのメリットはたくさんあります。
五感を刺激する遊びは心身の発達を促す効果がありますし、泥という決まった形のないもので遊ぶことは、想像力も養います。そして泥や砂を触るとセロトニンというリラックスホルモンが分泌され、情緒を安定させる効果もあると言われています。

唐津の棚田の田んぼで子どもが泥んこ遊びに夢中

子ども達の笑顔が背中から伝わる泥んこ遊び(写真提供:福岡自然大学校)

子ども達の歓声が響き、虫たちが飛び回る田んぼ。昔はどこもこんな風で、人も土も、生命力にあふれていたのではないでしょうか。いつから私たちは薬を使う事を躊躇わず、虫や菌は排除するもの、と思うようになったのでしょうか。「食べたもので身体は作られる。」そんな当たり前のことを思い出させてくれる場所、それが一粒田なのです。

坂本さん夫婦の22年間続けてきた一粒田には様々な想いが込められています

【Information】

一粒田(Ichiryuden)
住所:〒847-0123 佐賀県唐津市枝去木2247
電話:0955-72-7374(電話注文、配送も可能)

唐津に移住したKyokoさんの写真

コラムニスト:Kyoko

4児の母 ピラティスインストラクター指導歴9年
四国・湘南・東京・熊本など、各地で高校生から70代の女性を中心に、ピラティス・筋膜リリースをはじめ、身体の正しい使い方・セルフケアを指導。身体が軽いと、産後はもっと楽しくなる事を伝えたいと、赤ちゃん連れ可能なレッスンや産前産後ケアも対応している。腰痛が改善し、一晩ぐっすり眠れるようになった70代女性や産後の尿漏れが解消した30代女性など、幅広い層から支持を得ている。
2016.8唐津に移住。現在は、移住先の築100年越の古民家で、無農薬無肥料でお野菜やハーブを育てながら、夫と4人の子どもたちと暮らしている。

ブログ:https://ameblo.jp/mjukpilates/

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