まちごと包み込む愛情がここにある
きゅうらぎデザイン
とある平日の午前中。待ち合わせは唐津市(からつし)厳木町(きゅうらぎちょう)の厳木駅(きゅうらぎえき)。無人駅の木造駅舎。
待合室の木製の長椅子に、きゅうらぎデザインの4人が横一列に並んで座る。
まるで高校生の電車待ち。取材を始めてほんの数秒後にホームよりアナウンス。「お客様に申し上げます・・・」「いいねぇ、駅って感じ。(笑)」そんな会話から始まる温かい時間。ホームに電車が止まるのは1時間に1本ほど。静かな雰囲気の木造駅舎はお馴染みの場所であり、今日だけは1時間限定のカフェとなった。
厳木町は唐津市の南部に位置する。国道203号沿いの道の駅には高さ12メートルの松浦佐用姫像がお出迎えしてくれる。自然に囲まれていて、30年近い歳月をかけて築き上げた紅葉が絶景となる「環境芸術の森」といった人気スポットもある。そんなまちで、きゅうらぎデザインは2016年から始まった。きっかけはこども園の統合だった。
以前は保育園が2か所と幼稚園が1か所。統合で民営のこども園になると報告聞いた時には、すでに建設場所は決定していた。アクセスや安全性を考え再検討を依頼したことがきっかけで、きゅうらぎデザインは始まる。その時のメンバーが町全体のこと考える人が多く、更に町づくりに目を向けるきっかけにもなった。「将来、子どもに無理しておってほしいなんて言えないけど、子どもが自然に残りたくなる町づくりをしていきたいね」という想いからだった。
「再決定したこども園の場所がすごくいい」と絶賛の厳木らしい風景に佇む校舎。アクセスも良く、厳木町内や町外の子どもたちが集まる場所となった。
※きゅうらぎデザイン・・・唐津市厳木町のまちづくり団体。住んでよかった。厳木いいね!と思えるまちにしていくため、色んな人とつながりながらイベント開催を手がけている。
―今はコロナでイベントがなかなかできない中、どんな事に取り組まれていますか。
竹花さん> 保険料の年間100円だけ頂いて、今は農業交流体験を開催してる。最初は芋ほりだけだったんだけど、今は芋や大豆の植え付けから収穫までプログラムを組んでやってみたらたくさんの人が参加してくれて。掘りたてのジャガイモをポテトチップスにしてみたり、焼き芋大会したり。
原田さん> 20人から30人集まってワイワイ過ごすの。楽しいよね。
―その体験でお世話になっているのは、どこかのお父さんや農家さんですか。
白水さん> 「浪瀬の農地を守る会」の方達で、厳木町浪瀬の耕作放棄地をどうにかしたいと取り組まれています。
竹花さん> 作業は月1で今は草むしりしたり、収穫した大豆で味噌作りも始まるよね。地域の方は現場を、きゅうらぎデザインは人集め。分担制でイベントができているって感じかな。
農業体験の様子
毎年、風のふるさと祭りという産業祭が行われているが、2020年はコロナの影響で中止。きゅうらぎデザインでは2016年から、キッズスペース、ワークショップ、おゆずり会などで出店していて色んなブースで人を楽しませている。おゆずり会では、不要になった子ども服が並んでいて、自由に持って帰ることができる。
筆者も家族で風のふるさと祭りに参加したことがある。ワークショップは子どもが夢中になって作っていたし、「サイズアウトの服持って帰っていいよ!」なんて、最初見た時は内心ビックリした。え?知らない誰かへ。しかも無料で譲ってくれるなんて!循環していこうという想いに何の見返りもなく、何だかジーンとしたのを忘れてなかった。まさか取材でその話が出てくるなんてビックリした。同じママとして、この方たちの優しさが形になったブースだったんだと再確認した時間だった。
―今までどんな活動をされてきましたか?
竹花さん> 3年前から厳木駅に関わることも取り組み始めて。佐賀県でイルミネーション列車の企画をされた時に「各駅のイルミネーションに取り組みませんか」と案内が来たけど、まずボロボロになった駅舎のギャラリー跡を綺麗にしたいなと思って、お掃除のイベントを呼びかけた。地域の方や高校生も来てくれたので、駅のギャラリー跡がきれいになった。おかげで2019年はクリスマス会を厳木駅で開催しました。ホームから見える産業遺産の給水塔をライトアップ。思いのほか人が集まって、入りきれないほどたくさんの人に見てもらえたよね。
木造駅舎の無人駅でクリスマス会なんてマンガの世界みたいだ。
給水塔のライトアップの様子
竹花さん> 木造駅舎も今は珍しい建物だから、全国からファンも一目見ようとわざわざ来てくれるし、給水塔とセットでその魅力を発信できたらいいな。今も厳木の地域の方や高校生も美化活動を続けられています。駅舎の東隣にある庭跡の場所を少しキレイにして、高校生が待ち時間に座れるスペースができたらなぁと。
“未来のおとな”に向けた優しさはこうして形になっていく。
白水さん 2年前婚活イベントもしたね。買い出しから行って!桜の季節にお花見しながら男女30人くらい集まって。スタッフの子どももおるから、婚活イベントで面倒見てもらって。スタッフの子どもをはさんで参加者が話してくれたり。面白かったよね。
初めて開催した婚活イベントの様子
―他にはどんなイベントがありましたか?
小山さん> ママ友が2組結婚式挙げてなかったけん、バレーの試合って言って呼び出して。地区の公民館を本格的にチャペル風にしてサプライズで持ち寄りパーティー。これかなり感動ものやったよね。
―え?!すごい!公民館でですか?(筆者思わず目が点)
小山さん> これはきゅうらぎデザインの活動ではないけど、きゅうらぎデザインに関わっていると周りのママが活動的だから、自分も背中を押してもらったような。だからできたこと。
原田さん> ママのパワーよね!すごいよね、公民館とは思えないクオリティーの高さ!
サプライズで公民館がチャペルへと早変わりした様子
―きゅうらぎデザインを始めて町の変化はありましたか
竹花さん> 見た目の変化はあまりないけど、決まっていたこども園の場所が変わったことは形として見える大きな変化の1つかな。
原田さん> 署名を集めて、ママや町の声を上げたらどうにかなるってことは、変化として大きかったのかもしれない。
竹花さん> 私は出身が厳木ではないから自由に言える部分もあるのかもしれない。
すごくいい町だと思う。夏場の夜、外に出れば蛍が飛んでいる。わざわざ出かけなくても夕飯の後に蛍が見れる。川遊びも車で10分行けば秘境へ到着。河原でバーベキューもできる。生まれながらこの環境に住んでいたら、当たり前かもしれないけどこれって本当贅沢だよね。
今後厳木地域の子どもは速いスピードで少なくなるから、周りから人を呼ぶというを考えていきたいそうだ。1人、2人子どもが増えるだけでも大歓迎。待機児童で保育園は入れないところに住んでいる人や、自然豊かな場所で子育てしたい方は、ぜひ来てほしい!と。
「人が減っていくことや地域活性化に諦めモードの人が多いけど、色んなイベントをしていくと記事になったりする。それで地域の人も一緒に喜んでくれる」とみんなが口をそろえて教えてくれた。最近地域の方から、感謝の声がよく届くようになったのも、本当に嬉しそうだった。
竹花さん せっかく厳木に住んでいるから、子どもと一緒に自然を楽しみたい。
原田さん> 仕事をしながらも地域に関わる活動をしていると、仲間もできて自分も元気になるし、町も元気になる。
小山さん> 厳木を出た人にさえ、懐かしさを発信できたらいいよね。
―何がそこまでさせるんでしょう?
「愛かな。地元愛!」4人の首が縦に大きく揺れる。
電車が止まるキキーッという音に厳木駅の横にたたずむレンガ造りの給水塔が喜んでいるように感じた。
【Information】
きゅうらぎデザイン
Facebook:https://www.facebook.com/kyuragi.d/
活動スタッフ:8名
代表:竹花奈美子
Mail:kyuragid@gmail.com
コラムニスト:山口さやか
出身地は福岡県八女市。福岡県で22年過ごし、2008年に唐津へ移住。ポケットWi-Fiもエリア外の大自然に囲まれた生活をしていく中で、地方創生へ繋がることを仕事にしていきたいと猛勉強しフリーランスへ転身。現在は地方の一人起業者向けに起業支援やコーチングを中心にサポートコーチとして自由なライフスタイルを確立。私生活では3人の子育てをしながら田舎ライフを楽しんでいる。