唐津の恵みをあなたの食卓へ
唐津直売所めぐみの里代表
宮﨑能秀(みやざきよしひで)さん
その日は雲一つない快晴で、山々からくる澄んだ空気と秋の風が心地よく吹いていた。今回取材したのは、現在唐津で野菜直売所めぐみの里を経営している宮﨑能秀さん。店頭には、無農薬を中心としたみずみずしい旬の野菜、果物、生花、彼が信頼できる自慢の生産者が作った商品が陳列され、中でも無肥料無農薬で栽培した宮﨑さんが作ったお米は、めぐみの里に来ないと購入できない。経営者であると同時に生産者。そんな2つの顔を持つ彼に、自身が栽培している田んぼを目の前に青空取材を行った。
宮﨑さんは、ここ唐津で生まれ育ち高校卒業後5年間は、昼はガソリンスタンド、夜は先輩の代行運転の手伝いをしていたが、2つの仕事をやっていくうちに自営業に興味を持ち始め、身近に現役自衛官の友人がいたことから、資金を貯める為に自衛隊に入隊した。
宮﨑さんが隊員生活を送っていた頃唐津では、母親が過去病気になった経験から、「健康は食から考えることが大切で周りの子育て中のママさん方にも唐津の恵まれた食材を」と、野菜の直売所めぐみの里をオープンしていた。宮﨑さんは、唐津を離れてから母親がなぜ昔から食の質にこだわっていたか、唐津がいかに食材に恵まれているかが分かったという。
めぐみの里で販売されている旬の野菜や果物
それから約3年後経営者は別の人に移り、その時の経営者がお店の継続が難しいのを聞き、「これも何かの縁だろう」とめぐみの里を引き継ぐことを決めた。
Uターン後宮﨑さんは、店の経営者として新規生産者を開拓するため直接生産現場へ行き、彼らの声を聞くようにした。店頭では見聞きした情報、彼らの想いを一緒にお客様へ届け、生産者側には後日商品を買った感想を伝える事で、生産者と購入者の関係を近くに繋げる橋渡しとしての役目も果たすようになった。これは、宮﨑さんが生産者と購入者の距離を近づけたい想いから出来た特別な関係だ。そして「自分が良いと思う物を正しい価格で正しく売りたい」という想いも強くなった。生産者の想いは宮﨑さんからお客様へ受け渡され、食卓に並ぶ際は生産者への感謝と共にあたたかい時間を運んできてくれるだろう。
宮﨑さんは、めぐみの里の経営以外でも2017年12月から唐津の農業、左官業、園芸等異業種の若手9人で唐津アグリ旬を結成している。
唐津アグリ旬のメンバー
唐津アグリ旬では、数か月に1回唐津だけでなく県外でマルシェや体験イベントを行い、顔の見える生産者として商品のPRはもちろん、自分達の職種の魅力を伝える活動をしている。宮﨑さんは、唐津アグリ旬の活動を通して農業の後継者不足と、若者達の生産者に対するマイナスのイメージを変えていきたいという。
福岡の百貨店で唐津アグリ旬のメンバーとマルシェを開催している様子
そんな宮﨑さんに更なる転機が訪れたのは2年前の事だった。オープン当初からお世話になっていた、米農家の加藤さんが年齢的・体力的に米作りを続けることは難しいという話を聞く。どうにか加藤さんのお米を残したい想いを持っていた宮﨑さんは、当時加藤さんから米作りを学んでいた農家の池田英治さんと再会する。池田さんは宮﨑さんの駅伝部の後輩で、取材時には仲のいい二人の雰囲気が伝わってきた。池田さんと再会したことで、「それなら自分で引き継ぎお米を作れば良いのでは」と考え、その想いに共感した池田さんと本格的に米作りを開始した。
加藤さんから引き継いだ田んぼでは、全て農薬や肥料を使わない*自然栽培でお米が作られており、米作りを始めた当時は、珍しい製法だった為作っても全く相手にされなかったという。それでも加藤さんは諦めず地道な努力を続けた結果、今では立派な土壌が出来上り、その想いは宮﨑さんと池田さんへとバトンが渡されたのである。
*自然栽培(農薬や肥料を一切使わない代わりに、本来持っている自然の力を最大限に生かすため、土と微生物のバランスや水の調整をしながら、作業工程を出来るだけ減らしていく製法)
*宮﨑さんと相棒の池田さんが共同作業をしている田園で、仲良く肩を組む様子
宮﨑さんは、お米作りを始めてから得られた生産者と経営者としての喜びについて、次のように話してくれた。「ここに来るようになってからは、鳥の鳴き声や風が頬に当たる感覚や空気が直に分かるし、外でこうやって汗流しながら、草刈りをすることで、自然の中で作業することの喜びも感じられる。同時に店頭では、お客さんからお米美味しかったよ。子供がめちゃくちゃ食べたよ。とか話を聞いたら、もっと頑張ろうと思えるし、きつい時にその人達の顔が一瞬思い浮かぶよね」
彼は、生産者になって初めて地域の人達に支えられている事や現場に居てこそ分かる生産者の苦労、作業が思うように進まない歯がゆさや焦りそれらを乗り越え完成した時の達成感。米づくりに携わった人にしか分からない経験や感情をたくさん知ったのではないだろうか。これら全ての立場を理解した宮﨑さんの接客は、より話に深みが増すだけでなく顔が見える生産者として、お客様にとってより身近な存在になっているだろう。「今はまだ生産者として米作りしか出来ないが、野菜も作り手がいなくなった時自ら育てて売れるようになりたい」と夢は膨らむ。
最後に今後何か目標はありますかと聞くと、「今後はもっと移住者向けのイベントの開催や女性でも出来る農業を目指していきたい。農業に興味がある若者にぜひ唐津に来てほしい」という。取材中彼は終始にこやかに話をしてくれたが、その目には唐津をどうにかしたいという強い情熱のようなものを感じた。
唐津は、海・山・川・の自然豊かな環境に囲まれ、野菜や果物、魚介類、畜産など食材に恵まれている。その食材の後ろには生産者一人一人がいて、宮﨑さんは彼らの生きた言葉を食卓に届けている。あなたも唐津の恵まれた食材を堪能しに、まずは宮﨑さんに会いに来ませんか。一度会えばきっとその魅力が分かるはずだから。
コラムニスト:AYAKO
3児の母。埼玉県出身 結婚を機に唐津に移住、現在は子育てをしながら、佐賀新聞の地域リポーターとして、唐津で頑張っている 団体や小学生、移住者を中心に、月1で記事を担当。そのほか、小学校の放課後遊びのボランティアスタッフや、読み聞かせ等、地域の子供達の育成に取り組む。唐津出身ではない、他県から来た自分だからこそ見える、新たな唐津の魅力を、発信していきたいと思います。