移住者の声voice
【唐津人】ありのままの私を大切に
伊藤寿賀子さん
幼少期を地元唐津で過ごし大学進学を機に単身上京。それから10年以上東京で様々な経験を経て、5年前結婚を機にUターン。結婚後1年は、それまでとの生活の違いに少し寂しさと焦燥感を感じ、唐津と東京を往復する日々を続けましたが、子どもの妊娠が分かりどこか中途半端な自分にけじめをつける為、東京での仕事を全て終わらせました。唐津に戻ってきてからは、オリジナルブランドのプロデュース、イタリアの教育プログラムを導入したアトリエをオープンする等、多方面で活動をされてきた伊藤さんですが、今回の取材を通してなんら同世代の母親と変わらない、ありのままの姿が少しずつ見えてきました。
そこで、普段はどの様な生活をお子さんと過ごしているのか気になり、出来たばかりのご自宅に伺うと、部屋の奥には遊び場兼学習の場として作った空間モンテッソーリ*の部屋が広がっていました。
ご自宅でのモンテッソーリ作業スペース
このモンテッソーリの部屋は3歳になる息子さんの為に作られており、彼が飽きずに、日常的な遊びの中で作業が継続出来るように、様々な工夫をしていました。しかし彼も気分がのらなかったり、別の事に興味が移ったり、毎日理想通りに動いてくれるわけではありません。その様子に苛立ちを感じたり、育児に関する多少の葛藤はあると言います。その中でも1番大事にしている事は、彼が今興味のある事にしっかりと寄り添い、とことん追求させる環境作りです。そうやってお子さんの為に全力で育児に奮闘している伊藤さんの様子が、取材時に伝わってきました。取材を進めていくうちに、家で遊ぶのに飽きてきた様子のお子さんが、「散歩に行きたい。」と言うのでいつもよく行く場所に同行させて貰う事にしました。
*モンテッソーリ(モンテッソーリとは自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりを持ち、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる事を目的とした教育法)
まず最初に向かったのは、ユニークなからくり人形が1時間毎に出てくる児童公園(時の太鼓)。そこでブランコや滑り台で思いっきり遊んだあと、ご長男のお気に入りスポット曳山展示場*へ案内して貰いました。館内に入ると、煌(きら)びやかな14体の曳山が展示されており、奥には唐津くんちの説明をする映像が流れていました。特に何をする訳でもなく、展示されている数体の曳山を真剣な眼差しで何十分も眺めていると、彼は2番山の青獅子を見て誇らしげに、「これはパパが乗ってる青獅子だよ。」と教えてくれました。最近は、展示場へ行く頻度も少なくなってきたのですが、多い時は毎週1、2回曳山展示場に通っていたといいます。その頃の事を、彼女は笑いながら「年パスがあれば欲しかったくらいですよ。」と冗談めかして言いました。
*曳山展示場(唐津くんちの時に使用する曳山14体が展示してあります。これらは国の重要無形民俗文化財に指定され、平成27年にはユネスコ無形文化遺産にも登録されています。)
彼女の子育ては、ご長男が今何を必要としているかを瞬時にキャッチし、その環境を出来るだけ整えとことん満足するまでやらせることでした。それはお子さんの限りない可能性を信じ、伸ばせるところは思いっきり伸ばしてあげたい、強い母の愛が感じられました。どの母親も自分の理想とする子育て像は持っていますが、それを実行に移すのは決して容易な事ではありません。しかし伊藤さんは、ご自身の生まれた唐津を誇りに思い、唐津ならではの子育てを自分の信念のもと、着実にお子さんに伝えています。こうやってご長男の好奇心を大切に、伝統文化を身近に感じられる環境も、彼女流子育ての一部だと分かりました。
今では唐津が大好きな伊藤さんですが、かつてはご実家の商売(老舗伝統銘菓伊藤けえらん)も、唐津の土地も面白味がなく嫌で仕方がありませんでした。しかし唐津以外の世界を知った事で、逆に唐津の素晴らしさや格好良さに気づけたともいいます。それからは、都会にはない自然と伝統が色濃く残る唐津だからこそ、幅広い人材育成が出来るのではと子ども達の教育について考え、次世代のリーダーを育てるべく新たな取り組みを始めています。彼女は、これから唐津を背負うであろう若者と、何を目指してどんな未来を思い描いているのでしょうか?自分の目指すべき道に一直線に進む芯の強さ。例え周りから何を言われても、決して流されず己の道を突き進む。母親として、1人の女性として、凛とした姿がそこにありました。
地元の高校生とSDGSを絡めた地方創生ゲームを楽しそうにしている伊藤さん
最後に今後の目標について聞くと、彼女は生き生きとした目でこう答えてくれました。 「今は幼児を中心とした教育活動をしているが、最終的には小、中、高、大人まで幅広い年代が繋がった教育環境を唐津で実現したい。その為には先ず私達大人が次の世代につなげていけるよう、はじめの一歩を踏み出す勇気が必要。」
彼女の様に1つの考えに囚われず、あらゆる可能性や才能を持った若者が唐津から輩出されるのも、そう遠い未来ではないかもしれません。
伊藤さんは、唐津とは違う別の世界を知った事で、新しい価値観や経験を身につけ、持ち前の行動力に磨きをかけ戻ってきました。きっと東京にいた時は楽しい事ばかりではなく、辛い時もあったでしょう。しかし彼女が都会で培った経験は着実に生かされています。でも彼女は決して現状に満足はしません。いつでも更なる高みを目指して、自分の理想を実現するその日まで走り続けます。
何に関しても決して妥協はしない
何事もいつも全力投球
やるからには中途半端にしない思いっきり突き抜ける
何物にもならず型にはまらない
それが伊藤さんが見つけたありのままの生き方
コラムニスト:AYAKO
3 児の母。埼玉県出身 結婚を機に唐津に移住、現在は子育てをしながら、 佐賀新聞の地域リポーターとして、唐津で頑張っている 団体や小学生、移住者を中心に、月 1 で記事を担当。 そのほか、小学校の放課後遊びのボランティアスタッフや、 読み聞かせ等、地域の子供達の育成に取り組む。 唐津出身ではない、他県から来た自分だからこそ見える、 新たな唐津の魅力を、発信していきたいと思います。