自分達らしい幸せのかたち
VILLAGE INC. 波戸岬キャンプ場管理責任者
加納達也さん
一面に玄界灘の青くて広い海原が広がり、自然と歴史遺産に囲まれた場所に位置する鎮西町。今回取 材したのは、そんな自然あふれる地域にある波戸岬キャンプ場管理責任者の加納達也さん。現在は、 全国の有休地や有休施設など一見無価値とされるような場所を、新たな魅力的な場所として作りだす会 社 VILLAGE INC.(ヴィレッジインク)に勤め、二児の父親でもあります。話を伺う中で見えてきたのは、彼 の地域への熱い想いだけでない、家族思いの新たな一面でした。
加納さんが唐津に来るきっかけになったのは、ヴィレッジインクに入社する前大阪で転職支援の会社に勤めていた時の事でした。当時の事を「結婚して、子供が出来て、次に子育ての環境をと考えた時に、転 勤族の働き方を本当にこのまま続けていいのか、大手企業に勤めていても、ある日突然会社都合で立 ち行かなくなったり、家庭の事情で U ターン転職しようと思ってもが上手くいかなくなったりする辛い事 実を目の当たりにするうちに、会社に人生を預ける生き方ってどうなんだろう」と考え始めるようになった と言います。家庭ではご長男のひどい夜泣きにも悩まされ、慢性的な睡眠不足。解決の糸口を見つける ことが出来ず、夫婦ともに心が折れかけていました。彼は「このままでは家族全体が不幸になる。自分達 が幸せと思う形はどれか、それを実現するにはどうしたら良いか」
時間をかけて家族会議をした結果、「嫁さんが気を使わず実家が近いところで子育てが出来て、自分も 命をかけてやれる仕事をみつけよう」これが自分達の幸せの価値だと思い、周りの知人に自分達の想い を発信していくうちに、知人の紹介で唐津出身者である*VILLAGE INC.(ヴィレッジインク)の橋村社長 に出会います。橋村社長の企業理念に共感し、ビジネスとして可能性を感じた加納さんは、2016 年 5 月ヴィレッジインクに入社。大阪から本社のある静岡に一年半移住し、波戸岬キャンプ場のリニューアル プロジェクトを機に 2017 年 12 月唐津に移住し、改修工事や、施設の整備、プレミアムエリアの設置等 を整え、2018 年 7 月に波戸岬キャンプ場をリニューアルオープンしました。
*VILLAGE INC.(ヴィレッジインク)2012 年 2 月 14 日代表橋村和徳氏によって設立。 「何もないけど何でもある」を モットーに、日本の豊かな自然環境と眠っている地域資産を呼び起こし、その土地に合った新たな観光資源を生み出す会社
加納さんは今の仕事を選んだ事について、決してキャンプが趣味でもなく好きでもなかったといいます。 では一体なぜここまでの覚悟を持って、あえてキャンプ場を再生することを選んだのか聞いてみると、「このビジネスは愚直にやったらちゃんと地域で立ち上げられるし、それが唐津に住むための手段だった。 それにこういう場所ってどんどん閉鎖して、場所の管理とか次の世代にそういう資産を引き継ぐっていう 経営的な観点が弱かった。そこを僕らはこうやってお金をちゃんと貰って、利用者の人に支持して貰い つつ管理することで、仕事が生まれて地域にお金が落ちてとういう良い循環が作れた」
今の状況が作れたのは地域の人達の協力も絶対不可欠だったと話してくれました。加納さんは「決して 自分一人勝ちではなく、上手く地域の人達と絡みながら、事業をすすめていくバランスが大事で、地域 の人達に喜んでもらえるのは嬉しい」とのこと。家族の幸せの為に自らのキャリアを捨て、新天地で土台のない仕事を始めるのは、勇気と自信がないと出来ないでしょう。当時の事を「自分のこの感覚はあって いるのか、県や国の補助金を使わせてもらうのに、お客さんが来なかったらどうしよう」とういう不安がつき まとったといいます。それを聞いて私は少し安心しました。私は彼の事を何でもそつなくこなし、自分に 迷いなどなく目的に向かい突き進んでいる人と思っていましたが、そこには人知れず悩み苦しみながら も、地域の人達や仲間に支えられながら、共に成長していたことが分かりました。
加納さんは他にも波戸岬キャンプ場を宿泊の場としてだけではなく、イベントのスペースとしても地域の 人達に利用してもらっています。その利用の仕方は様々で、大自然をバックにヨガや小学生が主催する 環境イベントのお手伝い、イベントでテントサウナが出来る環境作りをするなど、場所を最大限有効活用 し、宿泊客の人達が泊まり以外でも楽しめる空間、何よりも自分が楽しいと思える事を積極的に取り入れ、 あらゆる層の人達が開放的な気分になれる居場所作りを大切にしています。
加納さん一家が唐津に来てからは、ご長男の夜泣きもなくなり、奥さんも両親や地域の人に支えてもらいつつ、二人で協力して楽しみながら育児をしています。子育てをする点でも都会とは違い自然の環境 が残っている中で、のびのびと開放的に自由に遊ばせる事ができる。最近では、外遊びが好きなお子さ んと一緒に虫取りに行ったり、近所でとれためだかやエビをご自宅で飼っています。大人の枠にはめずにその子に合った事を見つけ、好きなことを伸ばして育てたい。加納さん夫婦が思う『自分達が幸せと思う形』は唐津に来てから実現しました。
最後に彼は今後の夢について次のように話してくれました。
「もっと高い目標として唐津から日本の地域を面白くしたいと思っています。なぞに面白いけど、地域で活躍している大人が当たり前にいっぱいいる世の中を作りたいし、王道じゃない生き方が認められる世の中になって欲しいなと思います。今のところ僕らが完全に異端児ですけどね。そして僕みたいな人間 が各地域でヴィレッジの看板を背負って、ヴィレッジインクが日本各地の地方を盛り上げているのが理想 ですね。それが今のところ一番の夢かな」とはにかみながら照れくさそうに言いました。
加納さんは今の活動を自分の代だけでなく、次世代の若者へバトンを渡していきたいと思っています。 「お金では買えない、目に見えない価値がここにはある。その価値に気付いてほしい。自分みたいな変 態的な人が増えてほしい。変態が地域のキーワードになる。人生一度きり、どうせいつか死ぬし、生きて いるうちに思いきりやりきりたい。その姿を次世代を生きる若者達に見て欲しい」彼は、あとから後悔しな いために常に全速力で前だけ見て走り続けます。まずは唐津、九州、全国へと規模をひろげ、地域おこ しに繋げるのはもちろん、自らが楽しんでやることを大切にする。もっと面白いものを何よりも自分がワクワクする事を。彼と一緒に唐津で新たな挑戦をしたい人は、一度ぜひ波戸岬キャンプ場へ。都会とは違うあなただけのあなたらしい生活が待っているかもしれません。
【Information】
コラムニスト:AYAKO
3 児の母。埼玉県出身 結婚を機に唐津に移住、現在は子育てをしながら、 佐賀新聞の地域リポーターとして、唐津で頑張っている 団体や小学生、移住者を中心に、月 1 で記事を担当。 そのほか、小学校の放課後遊びのボランティアスタッフや、 読み聞かせ等、地域の子供達の育成に取り組む。 唐津出身ではない、他県から来た自分だからこそ見える、 新たな唐津の魅力を、発信していきたいと思います。