唐津暮らし〜ここちよい生活のはじまり

唐津の暮らしvoice list

先人の知恵を活かした古典的な暮らし

秋田すみれさん

唐津焼作家

神奈川県出身 鎮西町在住

「ホーホケキョ」遠くの山から聞こえて来る鶯の鳴き声。辺り一面山に囲まれ遮る建物は何もない。小春日和の天気に恵まれ、春の訪れを感じるのどかな山奥に古民家が一軒。今回は東京で 唐津焼に出会い、3年の修行期間を経たのち作家として独立した、秋田すみれさんに移住前から現在の生活までを詳しく聞いてきました。

Q. 移住のきっかけは何ですか?検討し始めた時期は?

大学では陶磁専攻だったのですが、2年生の時山口県で農家のお宅にインターンでお世話になり、試しに山の土を使って土器を焼いてみたら、それがとても面白く「農作物を作る土で、そのまま器を作り、それを使ってご飯を食べる」その古典的な先人の知恵に心を動かされ、土についてもっと知りたいと思うようになりました。大学卒業後、すぐ作家になるにはまだ勉強が足りないと感じ、作家の元で直接学ぶ為弟子入りを考え始め、趣味である美術館巡りをしている時、東京の美術館で唐津焼のフォルム、素材、色味全てに魅了され、唐津に移住してきました。

Q.  弟子入りまでの経緯を教えて下さい。

唐津に来てからは、弟子入りする場所を探すため色々な窯元を巡っていました。唐津のギャラリーを見ていた時、私の現在の師匠である竹花正弘さんの作品に心惹かれ直ぐに連絡しました。何人かお話しを聞いた中で、1番器作りの考え方に共感出来たのが師匠だった事から、「この人の元で色々勉強したい」と思い弟子入りを志願しました。そして厳木町浪瀬に窯元を持つ師匠 の元3年間の修行期間が始まりました。

Q.  竹花さんはどんな方ですか?

師匠も東京から移住されてきた方で、何でも自分で作る方でした。薪窯で作品作りをしていて、土作りもご自分でされていました。唐津にいる作家さんは、お茶の席で使う器や茶碗を作っている方が多い印象だったのですが、竹花師匠は、料理用の器を意識したものを作っており、料理屋も、日常づかいも、どちらも使える器を作る方でした。

秋田さんの家の裏庭に咲く水仙の花。身近に咲いている植物を*釉薬(ゆうやく)の材料として使用

*釉薬(草木の灰と、長石などの砕いた土石類を水で熔いたもの)

Q.  修行期間中大変な事や不安なことはありませんでしたか?

大学の時と違い古典的な作業が多かったので、1年目はその工程を覚えるのに時間を費やしました。覚えるのに苦労はしませんでしたが、力仕事が多く、釉薬バケツ20kgを運ぶのは少し大変でした。不安なことは特にありませんでしたが、「もっと出来るようになりたい。早く一人前になりたい」と自分の中で焦りはありました。それ以外は毎日充実していました。

秋田さんが庭の土を使って作った水簸(水に釉薬と土を溶かして、あくぬきしたのち乾燥させたもの)

Q. お弟子さん時代はどのような暮らしをしていましたか?

朝9:00から17:00まで師匠の仕事の手伝いや雑事を主に行っていました。時々竹花師匠の奥様の手料理を頂く事もあり、とても温かい気持ちになりました。春には庭の梅が満開になり、初夏には裏庭の用水路でお子さんと蛍を見る機会があり、その幻想的な空間に1人で感動していました。秋になると、毎年栗を食べに猪が山から降りてくるのを見たり、四季の移り変わりを感じながら、自然溢れる中で3年間過ごさせて頂きました。

Q. 休日はどのように過ごしていますか?

休日は唐津で出来た友達と、地域で開催しているイベントに行ったり、1人の時は長崎、福岡の美術館巡りや有田陶磁美術館、名護屋城の展示室等芸術鑑賞に行っています。焼き物では作るのはもちろん見るのも好きなので、自分の作品の刺激にもなるように、各地域の民族資料館に行くことが多いです。

自宅にある花瓶で秋田さんが生けた花

Q. お気に入りのスポットはどこですか?

唐津に来てから温泉巡りが好きになり、中でも呼子にある台場の湯はとても気に入っています。温泉に入った後車で呼子の海沿いをドライブして帰る時、「なんて贅沢な事をしているんだろう」とつくづく思います。これが今私が一番幸せを感じる時です。

Q. 鎮西町はどんな街ですか?

とにかく土が赤いです。唐津市内から鎮西町に向かって車で走っているとだんだん土の色が赤く変わっていくのが分かります。唐津の土は白も赤もあるので作品の焼き上がりが全然変わるのが面白いです。また東京では住宅街に住んでいたので、窓から見える山々の景色や澄んだ空気、白んだ朝の風景は都会では体験出来ません。隣に家がないのも今後作品作りをするのに没頭出来るし、けむりの苦情を気にしなくて良いので、私にとっては市内に比べると生活しやすいかもしれません。

Q. 地域とのつながりはありますか?

まだ厳木町から鎮西町に来て5ヶ月しか経っていないので、地域の方達との交流はあまり出来ていませんが、今年のお正月に*鬼火焚きに参加しました。鬼火炊きのあとは、土を掘って家から持ってきたお餅を網で焼いて食べるのがこの辺の風習。手ぶらで参加した私にも地域の方達が、焼いたお餅をご馳走してくれ、とても美味しく頂きました。

*鬼火焚き(九州各地で行われる1月の伝統行事で、間伐材や孟宗竹を利用し櫓を組み上げ、炎をつける伝統行事)

Q. 唐津の魅力は何だと思いますか

自分と同じように移住して来た先輩達が多くいるので、その方達から必要な時必要な情報を教えて頂けることです。師匠探しの時も古唐津研究会の仲間に色々教えて頂きました。先輩たちの経験、弟子中の体験を聞く事が出来たお蔭で、弟子に入った後の生活も想像する事が出来ましたし、安心しました。

Q. 空き家はどうやって見つけましたか?また空き家はどの様に活用する予定ですか?

最初は他の自治体の空き家見学ツアーに参加し、空き家の見方や確認するポイントを何件も物件を見ることで勉強しました。その後空き家バンク制度の物件や不動産の物件を、月に1度、1年半かけて探し、最終的には空き家バンクに掲載されている物件に決めました。唐津市では、空き家バンクの物件を改修する人に対して補助を出しているので、改修補助金を活用しました。空き家バンクの詳しい情報は、市役所の空き家対策室で相談すると良いと思います。とにかく自分の条件にあった場所が見つかるまで、何件も諦めずに見に行った方が良いと思います。私の場合は、窯が作れる条件と自分の作品作りにとって最高の土がある場所だと思い、ここに決めました。1階にある空き家は、大家さんのご厚意で無料で譲って頂ける事になったので、自分一人の場所ではなく、ジャンルを問わず作品作りの場所として提供したり、窯元ツーリズムの場所として利用してもらいたいと思っています。

Q. 独立する際何か支援を利用されましたか?

独立するにあたり、古唐津研究会の先輩が以前起業支援金を使っていたのを知っていたので、 自分で色々検索して調べました。早速佐賀市にある説明会に参加し、書類審査とプレゼン審査があったので、書類作りを佐賀県よろず支援拠点の方達に相談とアドバイスをもらいながら、zoomで3回ほど打ち合わせを重ねて申請を完了させました。私はたまたま独立時期が夏頃でしたが、事業届の時期に注意しないと申請が受け付けてもらえない場合があるので、概要をしっかり確認の上申請した方が良いと思います。

秋田さんが自分で考えた登り窯の設計図

Q. 今後取り組みたいこと、目標を教えてください。

先ずは今製作中の窯作りを夏前に終わらせたいです。窯作りの作業は弟子時代に手伝った事はありましたが、最初からやるのは初めてなので悪戦苦闘しながらも師匠にアドバイスをもらいつつ進めています。あとは登り窯が出来て作品作りをする時間が出来たら、陶器作りはもちろんのこと工芸品が好きなので自分でも使えるような文房具やタイルを作ったり、ピアスやペンダント等身に付けて可愛いと思えるような、オリジナルの物を作っていきたいと思っています。

裏庭にある窯作りのスペース

現在登り窯の一の間、ニの間、三の間を制作中

Q.  最後に移住を検討している方へメッセージやアドバイスをお願いします。

毎日見る景色が新鮮で気分が良い。圧倒的に美しい物に囲まれて暮らすことは心が豊かになるだけでなく、ちょっとした悩みも「まあいいかと」ちっぽけに見えてきます。唐津での暮らしは地域の人達から焼き物に必要な材料を頂いたり、窯道具やろくろを頂けるなど、人の優しさに触れながら、皆で支え合って生きているのを実感します。映像では味わえない本物の自然の美しさを体感してみませんか。弟子の入門方法も教えます。十人十色の暮らしをしている人達がいる唐津へ、一度是非足をお運び下さい。

秋田さんの作品 小鉢5種

【Information】

唐津焼作家 

秋田すみれさん

Instagram:@akitasumire

唐津移住コラムニスト:AYAKOさん

コラムニスト:AYAKO

3児の母。埼玉県出身

結婚を機に唐津に移住、現在は子育てをしながら、佐賀新聞の地域リポーターとして、唐津で頑張っている

団体や小学生、移住者を中心に、月1で記事を担当。そのほか、小学校の放課後遊びのボランティアスタッフや、読み聞かせ等、地域の子供達の育成に取り組む。

唐津出身ではない、他県から来た自分だからこそ見える、新たな唐津の魅力を、発信していきたいと思います。

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