地域の魅力を拾い集める山間の暮らし
野田宗作さん 野田早百理さん
七山地域おこし協力隊
広島県福山市(宗作さん)・福岡県福岡市(早百理さん)出身
2021年3月に山口県から家族5人で唐津市七山へ移住した野田さんご家族。現在は、ご夫婦で地域おこし協力隊として七山で活動しているお二人にインタビューし、移住のきっかけや七山の暮らし、地域との繋がり、地域おこし協力隊の仕事についてお話を伺ってきました。
Q. 移住前はどこでどのようなことをしていましたか?
宗作さん:移住前は山口県に住んでいて、月〜金で銀行員をしていました。
早百理さん:私は結婚前にドイツのフランクフルトでキャビンアテンダントをしていました。CAを辞めてからは英会話教室の非常勤講師として勤めた後、独立して英会話のオンラインスクールや教材の開発などをやっていました。今も地域おこし協力隊として活動しながら、その仕事を続けています。
Q.移住のきっかけは何ですか?移住を検討し始めた時期を教えてください。
田舎で子どもたちと自然豊かなところで遊ぶように楽しく暮らしたい!という夢が昔からあって、となりのトトロのようなライフスタイルに憧れていました。40歳手前というタイミングと世界が色々様変わりしたのをきっかけに私の移住スイッチが本気で入りました。移住地を探すドライブを3年間くらい週末にしていたんです。唐津市の七山にも訪れたことがあってめっちゃ気に入っていました。今すぐではなくて、いつかはと私も思っていたんですが、2020年の10月に、移住の情報収集をしている中で地域おこし協力隊のことを知り、七山でも募集が出ていることを佐賀県庁の方が教えてくださいました。12月に応募して、受かったら行こう!と話していました。
Q. 移住の決め手はなんですか?
早百理さん:仕事がちゃんとあるっていうのが決め手になりました。家族連れで移住する人の中には、例えば、農業とか起業したいと移住される方が多いと思うんです。だけど、私たちの場合、私はすでに起業していてどこでも仕事ができるけど、彼はすぐに起業するつもりもなかったし、何を生業にしていこうか考えていました。その点、七山の地域おこし協力隊の仕事は地域の方にまずは溶け込んで何が地域にとって必要かを吸い出すことができると思いました。だから3年間お給料をいただきながら起業の準備をしているつもりでお仕事をさせていただいています。
Q.移住するまでの流れを教えてください。移住するために準備したことはありますか?
早百理さん:山口県岩国市に住んでいました。佐賀まで車で4時間くらいかかるんですけど2回ほど足を運びました。子どもを3人とも保育園に預けるつもりだったので、移住先の保育園のこともちゃんと見ておかないといけないなと思い、実際に七山を訪れた時に保育園にも連絡を取り、ご挨拶をさせていただきました。
他にも、鳴神の庄という産直市場の店長さんのところにも「今七山に来ているのでお話聞かせてもらえませんか」といきなり電話をして、お話を聞かせてもらいました。店長さんがすごく良い方だったので、この方が産直市場の店長をやっているならここ(七山)はいいところだ!って思ったんです。そんな感じで現地に行って情報収集をしました。
Q. 移住するにあたって大変だったことはなんですか?
早百理さん:移住するときに色々調べたのですが町の情報が何にも出てこなかったことが大変でした。今は移住者が移住する前にどんなことが知りたいのか分かるので、私たちがその情報を発信しているようなイメージです。行ってほしい場所とか。食べ物屋さんをリポートして動画を作ったり、Googleマップにクチコミを追加したりしています。
Q. 七山での子育てはどうですか? 環境や暮らしを教えてください。
早百理さん:めちゃくちゃ子育てしやすいです。七山に来てから仕事で取材に出かけることが多く、預けるところがないと友達に話したら「じゃあ預かるよ」って言ってくれて。その子の家のお兄ちゃんと遊ばせてくれるので本当に助かっています。周りを頼れるようになったことが一番変わったところです。逆にその人たちが仕事やデートをしたい時には私たちが預かったりとか。山口ではそんなことは無かったので、お互いに助け合える関係ができているのには本当にびっくりしています。
Q. 七山の保育園は入りやすかったですか?
早百理さん:子どもが3人通っていますが、すんなり入れました。待機児童はいないと思います。
Q. 実際に保育園に通わせてみてどうですか?
早百理さん:凄く良いです。七山保育園は人数が少ない分、保育が手厚いと感じます。しかも縦割り保育だから上の子も下の子も同じクラスにいて、お兄ちゃんお姉ちゃんとして手本を見せるように先生が導いてくれたり、子ども達も年上の子を見て何かやりたいと思うようで、凄くありがたいです。その保育方針を聞いた時にここにしようと思いました。実は、少し離れた場所には色んなタイプの保育園があるんですけど、七山の保育園が私にとって一番理想的でした。
野田さんご家族
Q. 休日はどのように過ごされていますか?
早百理さん:休日と仕事の境目があんまりなくて、取材に行くことが多いです。この間も白魚の簗(やな)かけっていう伝統漁法があるんですけど、その取材に子どもたちを連れて行きました。今まで仕事をしている様を子どもに見てもらえることはなかったし、私も家で仕事をしているとはいえパソコンとオンラインでっていう感じだったので、取材やインタビューをしているところを子どもたちが見てくれて嬉しいです。長男はカメラを向けると「のだしょうのしんです。YouTuberですっ」て真似をしてくれたりして、見てくれてるんだなって思います。
Q. 七山のお気に入りのスポットはどこですか?
宗作さん:観音の滝です。観音の滝には生目観音様がいて、目にご利益があるんですよ。他にも七山市民センターの近くの川が滝まで続いてて、浅くてずっと歩ける感じなんですけど、そこを子どもたちがライフジャケットを着て大人と一緒に登って来る国際渓流滝登りinななやまというイベントもあります。全国から2,000人くらい来るそうです!
早百理さん:樫原湿原もおすすめで九州の尾瀬って言われているすごい素敵なところです。湿原にしか生えない植物とか昆虫とか貴重な種がたくさんあるので大学の先生とかも研究するために来られる場所なんですよ。
観音の滝
樫原湿原
Q. 地域とのつながりはありますか?
早百理さん:移住をして2週間くらいの時に家の前に誰からか分からないミカンが置かれてたことがありました。後でわかったのですが、ほんとに何回かしか話したことのない近所のおじちゃんが、「こどもがいっぱいいるから食べなさい」と置いていってくれていたそうです。それぐらいみんな優しいというか応援してくださっています。私たちはお返しに、実家に帰った時に福岡や広島のお土産をお渡ししたりしています。
早百理さん:地域の方との繋がりは取材がきっかけになることが多いですが、あとは老人クラブの飲み会とか、本当に地域に溶け込みたいって思っているので顔を覚えてもらうためにできるだけ参加しています。
年末に鳴神の庄で餅つきをした時の宗作さん(右)
地域おこし協力隊の活動で七山茶の取材をしている様子
Q. どんな時に唐津に移住して良かったと思いますか?移住後に感じた唐津の魅力はなんですか?
宗作さん:水ですかね!七山は水が美味しいんです。
早百理さん:七山の家はほとんど井戸水なんですよ。だから天然水で洗濯もお風呂も飲水もできて本当にありがたいです。私のように肌荒れで悩まれている方には、本当に良い環境だと思います。野菜もスーパーで買うものと全然違うから本当に感動しました。2021年の秋から「さゆりん農園」というダーチャスタイルの菜園を始めました。移住する前に農業や菜園に興味がなかったとしても私みたいにやりたくなる人がいるかもしれないくらい土地がいいというか、こんなに美味しい物ができるなら私もちょっとやってみようかなって思うくらいです。
七山に移住して始めたさゆりん農園
Q. 唐津に来て驚いたこと、移住前と移住後のGAPはありましたか?
早百理さん:こんなに光熱費がかかるとは思っていなかったです。食べ物はいただけるものもあるし産直市場で安くおいしい野菜が買えるので食費の部分の支出は抑えられているんですが、その分カビ防止の夏の冷房やヒーターの灯油代、ガス代が高くなってびっくりしました。
ネット環境は七山は光回線が来ていないので少し遅く感じます。移住前の頻度で英語の仕事をするってなったらちょっと厳しいと思います。移住前はそう言ってもつながるだろうと思っていたので正直びっくりしました。
Q. 移住して困ったこと、不便だったことはありますか?
早百理さん:古民家あるあるかもしれないんですけど、めっちゃカビるんです。スーツとか1年目で全部カビちゃって、カビは本当に参ってます。
宗作さん:家の裏が山だからどうしても湿気が入ってくるんですよね。
Q. 地域おこし協力隊ってどんな仕事ですか?どんなときにやりがいを感じますか?
早百理さん:私たちは、外に情報を発信するっていうよりも七山で暮らしている人に七山の魅力を再確認してもらうこと、地域の繋がりが弱まっているので繋がりを復活させて欲しいというお声をいただき、それを地域おこし協力隊のミッションとして活動をしています。
宗作さん:今は、七山で暮らすいろんな方を取材して七山の情報を地域新聞『ななやま新聞』として発信しています。新聞は七山の全戸700弱くらいに配布してもらっています。 会った事のない人から新聞の人だねって声をかけてもらうことも多いです。
早百理さん:私はパソコンが苦手なので手書きで新聞を書いています。新聞を子どもたちにも読んでもらいたいという思いで文字全てにルビを振っていて、それがおじいちゃん達にも読みやすいと言ってもらえています。ななやま新聞は一家に一部しか配られないので、足りないと市民センターに取りに来てくれることもあって嬉しいです。Instagramで発信もやっているんですが、私たちのインスタを見るためにおじいちゃんおばあちゃんがインスタデビューしてくれたって聞くとやりがいを感じます。
鳴神の庄に掲載されている『ななやま地域おこし協力隊だより』
野田さんが作っている『ななやま新聞』
Q. 移住前と働き方に変化はありましたか?
宗作さん:仕事内容は全然違うなと感じますね。色んな人と知り合えているっていうのが一番変わったのかなって思います。前の仕事でも人と何かしたりっていう機会はあったけどそんなに踏み込んではなかったので、今は仕事以外での付き合いも多くなって、そこが非常にいいなと思っています。
Q. 今後取り組みたいこと・目標を教えてください。
早百理さん:すでに発行しているななやま新聞が月に1回の発行になるので、七山こども記者クラブを作って子どもたちに記者になってもらえたらなと思っています。任期が終わった後に七山の子どもたちがななやま新聞を作るのが理想の形だと思っているのでそこに繋げられるように2年間準備しようと思っています。
宗作さん:地域おこし協力隊のミッションの一つになっている拠点作りをやっていきたいと思っています。例えば、そこでイベントをやってみんなが集まれる場所になったり、小学校からも近いので子どもたちがゆっくりできる場所にできたらなと思います。他にも農家さんが多いので、付加価値を高めるために加工できる場所として使っても良いのかなと思ってます。
早百理さん:他には、七山の学校には新聞部はないのですが、放送部があるので拠点の中にスタジオを作ろうって話もしています。YouTubeチャンネルで”ななやま放送局”を4月から作ろうと思っています。最初は私たちが番組を作るけど、子どもたちにも入ってもらえるようにしたいって話していて、そういうのを作れる場所とかトライできる機材を少しずつ揃えていって拠点でみんなで使えるようにするのも良いんじゃないかなって思ってます。
Q. 移住を検討されている方へメッセージ・アドバイスをお願いします。
宗作さん:私はあまりやりたいことを固めずに移住してきたのですが、私の場合はこれが結構良かったのかなと思います。
早百理さん:彼を見ていて、逆に何も決めて来なかったからこそ幅広く色んな方がこれどう?これどう?って言ってもらえているような気がします。この人の人となりを見てくださって信頼できるしっかりしている人だからと今では、私たちが考えてもいなかったような仕事がくることもあります。あまり固めすぎないで来たのがよかったのかなと私も思ってます。
早百理さん:私がやっていて良かったのは、情報収集ですね。自分が住むっていう覚悟を決めるためにもどんなに遠くても一回は検討している地域へ行ったほうが良いと思います。移住してからイメージが違うとつらいと思います。できたらその場所の人と1人でもしゃべってみるとか、私たちのように子供がいる方なら保育園とか絶対お世話になるところを一回見とく!というのが私からのアドバイスです。
【Information】
コラムニスト:三笠旬太
青森県八戸市生まれ。大学卒業後、母親の実家がある唐津市へ移住。その後、海外生活などの経験を経て、唐津市から委託を受け移住支援の取り組みを行なっているNPO法人唐津Switchへ入職。
移住希望者の気持ちに寄り添った移住サポートや古民家を活用したシェアハウスの企画・管理、ローカルコミュニティの運営などを行なっている。唐津に住んでトータル9年。趣味は、登山・旅行・音楽。