唐津暮らし〜ここちよい生活のはじまり

唐津の暮らしvoice list

山で働き、海で暮らすライフスタイル〜新たに林業の世界へ〜

美山愛さん

東京都出身

『初めて林業のセミナーに参加した時からワクワクが止まらなくなったんです』と笑顔で話をされていた美山さん。美山さんは、東京から福岡、福岡から2年半前に唐津へ移住し、現在、唐津市内の森林組合で働いている。その会社では現場作業員として女性で初めて林業に従事している。今回はそんな美山さんに移住や一次産業の仕事、唐津での暮らしについてインタビューを行いました。

Q1. 移住前はどこでどのようなことをしていましたか?

夫の実家が福岡だったので、結婚を機に東京から福岡に行き、仕事は事務職をしていました。

Q2. 移住をされたきっかけや経緯、決め手を教えてください

私の場合は地方に移住したいと思うより「林業をしたい!」が先でした。事務職時代にコロナが広がって、ほぼ在宅ワークになり、家から一歩も出ない日が続いたことで、私の職業人生が漠然とこのまま続いていくことに、違和感を持つようになって、一次産業の仕事をしたいなと思ったんです。

 

始めは農業しか思いつかなくて、自分で畑を借りたりしていました。その後、農業の転職サイトに登録をした時に一番最初に届いたメールが佐賀県の林業セミナーに関するメールだったんです。その時に初めて「林業もあったか!」と思いました。私自身元々アウトドアが好きで、渓流釣りで山深いところに行くのも好きで、そんな時に土砂災害跡とかを見かけ、「山ってちゃんと管理しないといけないよね。」と、遊びながら思っていたことがよみがえりました。そこから山の仕事をやりたいと思うようになりました。

 

林業の仕事をすると決めてからは、どこを拠点にするか、全国を検討しました。林業が盛んな長野県には両親が住んでいるんですが、私は寒い所が苦手で。九州は好きだったので、九州からは出たくないなと思っていました。

 

佐賀県の林業セミナーで色々話を聞くと、佐賀県での仕事が私の条件に合致しそうだということが分かりました。特に、佐賀県のさが林業アカデミーは、1月から3月までの短期間で林業に必要な資格が取れるという所に魅力を感じました。他の県でも林業大学校や林業アカデミーはあるのですが、半年や1年、それ以上になることが多いので、その間、無職になり、支援金などの援助があったとしてもハードルが高いと感じていました。それに対して佐賀県は短期間で学べるため、仕事を辞めてアカデミーに入って林業に従事するということがイメージしやすかったんです。

 

他にも、佐賀県は林道が日本一充実していること。言い換えると山の隅々まで車で行けるということです。山深い県では、行けるところまで車で行き、その先は山登りをして行かなくてはいけなかったり、山小屋に泊まり込むという所もあるんです。それに比べて佐賀県は林道が充実している分、未経験の私でも働きやすそうだと感じました。

Q3.さが林業アカデミーについて教えてください。

さが林業アカデミーには3ステップあって、まずはセミナー、林業を知る入り口としての説明会が8月頃にあります。その後、10月頃に体験会があって、そこで林業をやりたいという人は1月頃から開講する林業講習会(以下アカデミー)に参加するという流れです。アカデミーでは実技はもちろんですが、座学もしっかりありました。アカデミー卒業のタイミングで、県内の林業事業体が集結する合同説明会のようなマッチングの機会があり、春には就職という感じです。アカデミーで入り口から出口までの一連の流れができているので、ありがたかったです。マッチングの機会があったのも佐賀に決めた理由の一つでした。

 

林業事業体の合同説明会では、「機械をどんどん入れてやっていかないと、これからの林業はやっていけない」という考えのところもあれば、「極力山に機械を入れない」という考えのところもあり、同じ県内でも、事業体によって様々な考え方ややり方があるということが分かりました。私ひとりでは調べられなかったと思います。どこに就職しようか考えるステップになり、これから林業をやっていく中で、私はまず様々な経験ができる所に行きたいと思うようになりました。

Q4.佐賀の中でも唐津のまつら森林組合に所属したのは理由があるんですか?他の森林組合とは具体的にどういった違いがあったのですか?

林業業界自体、女性が就くイメージがあまりないですよね。何より危険な仕事なので、雇う側としてもケガをさせたくないっていうのは大きいと思います。

 

合同説明会で私が積極的だということが分かってもらえたとしても「事務職はどう?」と現場に入るのはちょっと・・・というような空気感がありました。実際現場ではトイレがない環境で働く必要があったりと、私自身は気にしていなくても、雇う側としては少なからず抵抗があることを感じました。

 

その中でまつら森林組合の職員さんが、まず最初に「俺の娘が林業をやるって言ったら絶対嫌だ」と言ったんです。「怪我してほしくないし、きつい仕事だよ。ただ美山さんがどうしてもやりたいと、縁があってうちで雇う事になったあかつきには、自分の家族を迎える気持ちで、どんな環境がいいか考え、尽力する」と言ってくれたんです。ここに行ったらちゃんと向き合ってもらえるなと思えたので、まつら森林組合に入ることを決めました。

Q5.まつら森林組合では女性の現場採用は美山さんが初めてなんですか?

そうですね。私が初めてでした。

 

実際にまつら森林組合が準備してくれた1つに軽キャンピングカーがあります。女性が現場に入っても、着替えやトイレができるようなシェルターとして、キャンピングカーを用意してくれました。今は、この車でいつも移動しています。

Q6.美山さんのお仕事を具体的に教えてください。

私は現場作業員として働いています。季節によって木を切る時期、木を植える時期、植えた木の周りの雑草を下刈する時期というサイクルで、木と関わっています。

 

植えたものが枯れないように、暑くなる前に植栽を終わらせるのが理想ですね。植栽する前には皆伐をして木を全部倒したところに苗を植えます。皆伐したところは切り倒した木の枝とかで地面が見えないので、植えられるスペースを作るために「地ごしらえ」という木や枝を寄せる作業をします。重機が入れるところは重機で作業しますが、急勾配のところは重機が入れないので、鎌などを使って手作業をしています。

Q7.大体何人ぐらいで動いているんですか?

現場の規模によりますが、皆伐の時は道づくりを最初にします。基本は2人で道を作る先行伐倒と言って、機械の前に入って、機械が通れる道を作るようにチェーンソーで切る係の人が1人。その後ろからショベルカーに乗って根っこを掘り起こして道を作る人が1人。

 

道ができた後は、できる限りの人員が動員されて一気に伐り倒す感じです。

まつら森林組合は17人現場職員がいて、私が入社してから4人増えました。佐賀県内の林業事業体の中でも1番多いかもしれません。他の事業体では現場が3人のところもあり、林業に関わる人が少なくなっています。

Q8.どんな世代の人が働かれているんですか?

私が入った時は、再雇用の方で70歳が一番上でした。10〜50歳代の方がいて、そのうち40歳代が一番多いです。

Q9.職種の違う仕事に転職をされていますが、就業前に感じていた不安はありましたか?

不安はありませんでした。

セミナーで話を聞いた時からワクワクが止まらなくて。女性が林業の世界に入っていくのは大変だろうと周りから言われるんですが、そんなことはないです。働いていく中で壁はあるだろうけど、その時々で考えればいいと思っていました。

普段美山さんが働く七山エリアの森

Q10.働く前と後での仕事のギャップはありましたか?

ギャップはあんまりないですね。合同説明会の時、本当に全部オープンに話してくれました。「君が来るならこういうのを用意しておくから」とか、「現場仕事だから、こういう危ないこともある」「効率優先して怪我するなよ」と。その時に、良いことも悪いことも包み隠さず話してくれていたのが、実際に働いてみて、その通りだと感じています。危険な仕事っていうイメージがあると思うんですけど、その点はアカデミーに入って、何が危険で何が安全かっていうのを叩き込まれました。だからその選択を自分が誤らなければ、安全に出来る仕事です。

まつら森林組合七山支所での様子

Q11.現在のお仕事の楽しさを感じる瞬間はどんな時ですか?

今、全部楽しいんですよ。一番清々しいと感じるのはチェーンソーで木を切っている時です。ただ、私はまだ技術が未熟なので切り倒すのは周りより遅いんです。だから自分の実力に悔しさを感じることがあります。

 

入ったばかりの時は、チェーンソーの伐倒の練習のために道作りの先行伐倒をさせてもらいました。間伐のために木を切り倒す時は、できるだけ他の木を傷付けないように隙間に綺麗に入れないといけなくて、ズレてしまうと木が引っかかってうまく倒れなくなってしまうので、技術が必要なんです。それに対して、道作りの先行伐倒はかかり木(他の木に引っかかってしまうこと)になったら最悪重機で倒せるので、とにかく基本の動作を繰り返す練習になるんですが、その練習が楽しくて。木を切るのが一番好きですね。

Q12.入ってすぐチェーンソーを握れるものなのですか?人材教育についてはどうですか?

私の場合はアカデミーで資格取得済みだったので一応会社としても即戦力という認識で雇ってもらっています。ただやはり最初は素人レベルなので、小さいチェーンソーで先輩が倒した木の枝を切って、感覚を身につけることや、チェーンソーを持って山歩きに慣れることを優先していました。

アカデミーを出ていない中途採用で入社する方でも、会社に入ってから講習を受けて資格を取ることもできます。

 

しばらく新入社員がいなくて、私と同期が入ったのが久しぶりだったみたいです。なので、今人材教育を頑張ってしてもらっているところですね。先輩方は熱心に教えてくれます。そこはギャップかもしれないですね。背中を見て覚えろみたいなイメージがあったんですけど、丁寧に熱心に教えてくれるし、自分のこだわりを伝えたい、みたいな熱さがあってそれが意外でした。

Q13.県内の他の森林組合との関わりはありますか?

仕事ではほとんどありませんが、フォレストワーカー研修の時に、他の組合の方に会うことがあります。私の同期は9人で、みんな辞めずに続いています。他には、個人的には林業女子チームを作っています。伊万里と太良町の3人で女子会をしています。

Q14.現在の住まいはどうやって見つけましたか?選んだ決め手を教えてください。

とにかく海のそばが良かったんです。虹の松原の近くで物件を見つけました。

アカデミー後の合同説明会が3月上旬にあって、4月には仕事が始まるというスケジュールの短い期間で、どこに就職するかを決めて、決まってからどこに住むかを考えなければいけなかったので、物件探しもドタバタでした。とにかく賃貸情報をネットで調べていて、金額と、場所を絞って探していました。どうしよう、どうしようと悩んでいた時に、たまたま今住んでいる部屋が空いたんです。海の側にあり、駅も近く、空港もすぐに行ける、お店も近くにあって生活に困ることがないと思って即決しました。偶然だったんですけど、私の条件に全て合う物件でした。

美山さんが住む住まいから徒歩数分の浜崎海岸

Q15.職場や現場は山間のエリアになりますが、住まいを会社の近くに考えてはなかったんですね。

東京にいたころは通勤時間は1時間40分かかっていて、今の通勤は車で30分ほどで着くので、とても近いと感じています。

Q16.唐津の暮らしはどうですか?

とても好きですね。まだ地域の行事とかに参加したことがあまりなく、きっともっと好きになるだろうなと思いつつ、今はまだ自分のことだけでもいっぱいいっぱいという状況です。

毎日汗だくで帰ってきて、缶ビール片手に浜崎海岸に行って夕日を見るのが幸せですね。

Q17.何時から何時まで働かれているんですか?

7時半に厳木本所か七山支所に出勤して、そこから現場に行きます。現場を17時に上がって事務所に寄って、解散という感じですね。昼休憩、それ以外にも午前、午後に30分ずつの休憩があるので合計2時間休憩があります。七山支所からだと17時半には家に帰ってきてますね。

Q18.休日はどのように過ごしていますか?

私が単身赴任という形で、夫は福岡にいるので、唐津から1時間ほどで行ける福岡の方に行く事もありますし、巨木が好きなので、巨木を探しにドライブをしたりしています。

Q19.移住して良かったなって思う瞬間はありますか?

海の側に住んだり、花火大会を歩いて見に行けたり、お祭りのある地域に住んだりするということに憧れていたんです。今、普段の暮らしの中でその憧れが全て叶っていることがとても良かったなと思っています。今年は住んでいる地元のお祭り「浜崎祇園祭」を見ることができて、こんな素敵なお祭りがある真っ只中に私住んでいるんだって感動しました。お祭りの当日は、地元の方の家での集まりにも参加しました。これからはもっと地域の中に入って行きたいです。

浜崎祇園祭り・高さ15m、重さ5tにもなる山笠が浜崎の市街地を練り歩く

Q20.移住前後の唐津の印象を教えてください。

唐津は移住前から虹の松原を通るのが好きだったので、こんなところに住みたいなと思っていた場所でした。食べ物も美味しいし、良い所だなと思っていました。

住んでみて驚いたのは、浜崎の街中の飲食店が意外にあることでした。徒歩圏内でも5軒くらいあるんです。浜崎内で事足りてしまうので、ほとんど唐津市街には行ったことがないです。友達が遊びに来た時も歩いてふらっと近くのお店に行ったりすることできます。

Q21.美山さんが今後取り組みたいことを教えてください。

唐津市をもっと知ろうと思っています。歴史背景もおもしろいところが沢山あるので。今は、地域活動に参加できていないので、もっと関わっていきたいと思い始めたところです。移住者交流会もなかなか行けていないので、行きたいと思っているんですが、仕事が終わってバタンキューしてしまうことが多くて・・・

 

仕事の方は、力仕事ではやっぱり男性に及ばないので、時間のロスとかも考えるとどうしても男女平等にはできないんですよ。でも、重機は性別に関係なく同じパワーを使うことができるので、重機は「美山に任せたら大丈夫」というくらい頼れる存在になるために、また、会社としても私を重機で一人前にしようという方針なので、最近はもっぱら重機に乗っています。当面は重機を任せてもらえるように技術を固めていきたいと思っています。

Q22.移住をこれからしたいなと思っている方に対するアドバイスや何かメッセージをお願いします。

「仕事」に関しては、私の場合、林業と決めて飛び込んでから、アカデミーや、国の教育制度を知って進み始めたところがあります。林業に関しては、座学から実践、就業先の紹介など、入り口から出口までの仕組みがあり、とても助かりました。林業だけでなく他の一次産業も担い手を増やしたい、新たにやってみたいという人たちに対してサポートする仕組みがいろいろあります。全部自分で探して、全部自分で決めないといけないというイメージがあったんですけど、それぞれにサポート制度がいろいろあるので、思っていたよりハードルは高くないと思います。飛び込む勇気が必要かもしれないけど、飛び込んでしまえば波に乗れて連れて行ってくれます。

 

「暮らし」に関しては、私はしっかり計画をして移住をしたわけではないですが、そういう立場からお伝えすると、身構えたりする必要は全くないなと思います。その地域が好きだなという感覚を一番大事にしてほしいです。そこで居を構えて、生活するっていうのは自分が一番リラックスできる場所であるべきだと思うので、好きだなと思ったら、そこに住むだろうなぐらいの気持ちで私は来ました。それで良いんじゃないかなって私は思います。想いを持って自分が頑張っていれば、周りの人が助けてくれますよ。

【Information】

まつら森林組合 

Webサイト:https://matsura-saga.jp/

 

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