ずっと挑戦したかった畜産に関わる暮らし
大野 真さん
キャトルステーション/古河畜産勤務
神奈川県愛甲郡出身
唐津市は、佐賀牛の生産の約半数を担う有数の畜産地帯です。今回のインタビューでは、2022年に神奈川から単身で移住し、繁殖農家やキャトルステーション(農家に代わって仔牛を育てる施設)で牛の飼育に従事している大野さんに移住までの流れや畜産の魅力について話しを伺いました。
Q. 移住前はどこでどのようなことをしていましたか?
高校・短大・大学では農業系の学校に進学し、高校までは野菜などを育てる耕種農業の勉強をしていました。畜産との出会いは短大生の時です。専攻を決める際に、たまたま第3希望だった畜産に進むことになり、そこで畜産の楽しさを知りましたが、大学卒業後は地元神奈川県で小売業の仕事をしていました。
Q.移住のきっかけは何ですか?移住を検討し始めた時期を教えてください。
小売業の仕事に2年携わりましたが、改めて畜産に携わる仕事がしたいという想いが湧き、移住する3年ほど前から検討しはじめました。地元が、畜産を新たに始めるのには余り適していない環境であることも移住を考えた理由の一つです。
Q.移住するまでの流れを教えてください。移住するために準備したことはありますか? 相談先や移住の決め手を教えてください。
移住先を決めるにあたって、移住者を地域の方が受け入れてくれるかどうかを一番大事にしていました。そのため、まず全国の移住情報が手に入る、ふるさと回帰支援センター(東京有楽町)に相談し情報収集をする所から始めました。畜産が有名な九州を中心に移住先を探していて、東京で開催している移住フェア等のイベントに参加したり、オンラインの相談会に参加し、その中で気になったエリアには、実際に足を運び、地域の移住担当の方にアテンドしていただきながら情報収集を行っていました。
移住相談を重ね地域の担当者の方と話している中で、後継者不足のエリアは移住者も快く受け入れてくれるのではないかと考え、移住先の候補を長崎県・雲仙か佐賀県・唐津に絞りました。
最終的に唐津を選んだ決め手は、福岡へのアクセスの良さとNPO法人が移住サポートを行なっていてサポートが充実していると感じたからです。唐津ではお試し移住施設の運営も行っていて、移住前に1ヶ月利用しました。
移住フェアの様子@ふるさと回帰支援センター
Q. お試し移住を利用してみていかがでしたか?お試し移住中に体験したことを教えてください。
お試し移住滞在期間中は、唐津市や佐賀県の農業担当の方とのヒアリングを行い繁殖農家の所で、2週間短期研修を行いました。研修では、牧場の手入れや餌やり、除糞、牛の体調管理、出産の立会、育てた牛を肥育農家に引き渡す競り市に参加するなど様々な経験をさせてもらいました。他にも様々な農家の所に案内していただいて話を聞かせてもらい就農に向けてのアドバイスもしていただきました。
短期研修中初めての競り市を体験する大野さん
誰も知り合いがいない唐津での滞在でしたが、お試し移住施設はシェアハウスになっていて他に住んでいる人も移住希望者や移住者の方だったので悩みを共有できたり、他愛もない雑談をして楽しく過ごせました。知り合いの人がいる所に帰れるのはとても心強かったです。あっという間でしたが充実した1ヶ月間でした。
お試し移住施設根の家での移住者や地元の方との交流
Q. 唐津での暮らしはどうですか?
気に入っています。仕事は忙しいですが、ゆっくり楽しく暮らすことができていますし、休日には他の農家さんの所に遊びに行ったりしています。
Q. 唐津市内でお気に入りのスポットはありますか?
通勤の時に通る、肥前町にある大浦の棚田がお気に入りです。忙しくても横目で季節を感じますし、むしゃくしゃしていても綺麗な棚田を見るとそんな気持ちも忘れられて、贅沢だなと感じています。
唐津市肥前町 大浦の棚田
Q. 地域とのつながりはありますか?
私は、職場のある上場地域(肥前町、鎮西町、呼子町エリア)に知り合いが多く、みなさん親身になってくれて「大野くん頑張っているね!野菜たくさんあるけど持っていく?」と声をかけてくださいます。今は、「自分も早く地域の人に恩返しができるように頑張ろう」と思っています。
隔月に一度開催している移住者交流会に参加している様子
Q. 唐津に来て驚いたこと、移住前と移住後のGAPはありましたか?
想像以上に移住者に対しての受け入れが積極的でみなさん歓迎してくれました。唐津くんちなどのお祭りがあることもあり、外から来た人に対しても一緒に楽しもうと仲良くしてくれる人が多く、人との距離が近いと感じています。
Q.移住して困ったこと、不便だったことはありますか?
ひとり暮らしなので、怪我をした時や病気にかかった時が大変でした。唐津には総合病院や診療所が多くありますが、自分のために救急車を呼ぶのに迷いがあったのでその時が一番困りました。
Q. 移住後のお仕事について教えてください。
唐津市は佐賀牛の生産が盛んなエリアで、僕の仕事は肥育素牛生産というお肉にするための牛を育てることです。
畜産には大きく分けて3つの工程があり、母牛に人工授精し、出産から仔牛を8ヶ月育てる工程に携わる繁殖農家。その後2年間牛を大きく育てる肥育農家。牛を解体してお肉にする食肉センターがあります。
僕は畜産の中でも第1ステップの繁殖農家に勤めています。今は140頭ほどの牛に囲まれて母牛や仔牛を育てています。周りの農家は10頭前後の小規模な農家から50頭前後の中規模な農家まで様々です。私が働いている農家は繁殖農家として規模の大きい部類にあたります。
繁殖農家の牛舎
Q. お仕事の魅力を教えてください。
生き物に関わる仕事なので全てが思い通りにならない所が難しいですが、しっかりと牛と向き合いながらどうすれば牛が過ごしやすい環境を作れるのか試行錯誤することが楽しいです。そしてなにより自分の頑張りが牛の成長に繋がり、目に見えるところにやりがいを感じています。
いまはベテランの方から学べる環境にいるので毎日が充実していますし、ずっと挑戦したいと思っていた仕事ができていることが一番嬉しいです。
唐津市は佐賀牛の生産が県内No.1
Q.今後取り組みたいこと・目標を教えてください。
当面は自分の腕を磨いて、良い仔牛を育てられる技術を身につけたいと思っています。僕が力をつけることで唐津の畜産が元気になり、地域振興に繋がれば嬉しいです。
将来的には、後継のいない農家さんのところで事業継承をするか、今働いている農家さんをもっと大きな牧場にするという2つのビジョンを考えています。
Q. 移住を検討されている方へメッセージ・アドバイスをお願いします。
事前の情報収集がかなり大事だと思います。移住は本人にとって大きな決断ですので、その地域に合わないと思ったら無理に移住せず、じっくり考えてほしいと思っています。もし、唐津で農業をしたいと思う人がいたら、私でよければ相談してください。移住者視点で伝えられることもあると思いますし、唐津に移住したい人の力になれたらと思っています。
夢だった畜産に携わる移住2年目の大野さん
コラムニスト:関彩乃
漠然としたふるさとへの憧れから、いつかは地方で暮らしたいという思いがあり、NPO法人唐津Switchの採用を機に2021年に埼玉から唐津へ移住。現在は、移住コンシェルジュとして、移住希望者のサポートに務める。唐津で出会ったさまざまな人との繋がりから経験を重ね、自分の好きややりたいことを模索中。